ベルリン:第2週目。

週末はクラスのメンバーでカーニバルに行ったり、シャルロッテンの宮殿を見たり、美術館巡りをして過ごし、今日から授業は2週目。
そして授業のあとはまた劇場。この週に観たのは下記4作品。


5/12(月)
先週と同じくドイツ座にて、2006年にさいたまでも上演された『エミーリア・ガロッティ』の演出家、Michael Thalheimerによる"Die Ratten"(原作:Gerhart Hauptmann(1911))。今回もタールハイマー節炸裂、というか、舞台の幅いっぱいに2メートルくらいの高さの台が設置されて、上からも天井がせり出していてその間の1メートルちょっとくらいしかない隙間を背中を丸めて役者が動き回るという、題名の「鼠」を視覚的にもリテラルに再現したミニマルな空間に人間の憎悪や愛や希望や涙や悲哀がぎっしりとひしめきあってる感じ。タールハイマーは、空間の広さや狭さと役者の放つエネルギーとのアンバランスを舞台に組み込むのが非常にうまいと思う。現代の演出家で一番好きな人たちのなかの1人。ベルリンまで来た甲斐がありましたー。


5/13(火)
先週迷ってなかなか辿りつけなかった劇場、Haus der Berliner Festspieleにて、 Stephan Kimming 演出 "Maria Stuart"(原作:Friedrich Schiller)。これは個人的に全く受け入れられなかった。シラーの戯曲を現代に置き換えて、現代人の精神の病を取り込みつつ読み替えようとした、んだろうけど登場人物の1人だけ顔が白塗りとか、若い女性がいきなり叫んで発狂するとかされても困る。連日の授業とビールでそろそろ疲れがたまってきたところでもあるのでささっと帰宅して就寝。


5/16(金)
オスト駅近くの劇場Radialsystem Vにて、Jan Bosse演出 "Hamlet"。実は15日の公演を東京から予約していたのだけれど、むこうの手違いで用意されてたのは14日のチケットで、昨日劇場に着いてから日付が違うのに気付き、交換してもらおうとしたらレシートがないとだめといわれ、家まで取りに行って戻ってやっとチケットを替えてもらえたものの、今日の分の別の公演も予約済みだったのでそっちも替えなくちゃならず、とかなり交渉が大変でした。もちろん途中から完全に英語。こっちに有利な言語じゃないととても勝てません。そんなこんなで昨日途中からクラスの飲み会に参加したらこれまた事情を説明するのに英語派のクラスメートとフランス語派のクラスメートにそれぞれ事情を話さねばならなくなり、なんか自分が何語でしゃべってるのか途中でわかんなくなった。


さて、このハムレットはすごかったです。チケットは完全に完売で、当日券待ちの札を掲げた人の長蛇の列。内容が濃すぎてとても説明しきれないけれど、とりあえず劇場内(というか巨大な倉庫)に入ると中央の舞台の周囲をぐるりと長方形に取り囲む形で白いクロスのかけられた長机が隙間なく置かれ、その列の観客には銀のお皿とナイフ、フォークとカップが1人に1セットずつ用意されている。(私の席は明らかに1セット食器増やしたよねって感じの角の席でした(笑)。その後ろの列からは劇場の壁に沿って通常の階段式の客席。)
開演してからはもう、食器は飛ぶわ、机は投げ飛ばされるわ、椅子は投げつけられて破損した部品がお客さんに激突しそうになるわ、後半では観客が旅芸人の芝居の役者として引っ張り出されるわ、床下から床を突き破ってハムレットが腕から登場するわで、ここまでハイテンションな『ハムレット』は初めて観た。たぶん玄人は怒っちゃうかもしれないけれど、というか例えばピーター・ブルックハムレットとか比べるべくもないけど、これはこれでよくやったじゃんと私は思ってしまった。



5/17(土)
Christoph Marthaler 演出 "Platz Mangel"。2008年のテアター・トレッフェン、文句無しの大トリ。これはぜひ、東京で字幕つきで観たい、と切に願うが、恐らく無理だろう。東京に帰ったらSさんに感想を聞こう、と思ったら、これを観たら感想を聞きたいと当人からメールがきた。

来週からはHAUとかシャウビューネ、フォルクスビューネを中心に観て回ることにする。
そして、29日のドイツ語試験まであと一週間半だということに、家に帰ってから、はっ、と気付く。
きょえー

ベルリン:3日目。

ゲーテの前で偶然、東京の劇場関係者(指導教官含む)に遭遇し、昨日終わらなかった宿題を慌ててやっているところを目撃される。昨日までは夜とかすごい寒かったのに、今日の射差しは灼熱の熱帯並み。なんとなくお昼をごちそうになってしまったあと、いつもどおり授業に出て、夜はドイツ座にてJurgen Gosch演出、チェーホフの"Onkel Wanja"を観劇。


舞台に巨大な立方体の木箱を乗せ客席側の1面だけぱかっと開けてその箱の中で役者が演技する、という、分かりやすいといえば分かりやすい演出。ヴェロネッセの男女逆転版『三人姉妹』(『溺れる男』)のような大胆な戯曲の読み替えはなかったけれど、役者の演技に客席はおおいにウケていたし、全体的によく作り込まれた完成度の高い舞台、という意味では日本ではなかなか目にすることのできない「良質」な舞台、という印象。


終演後は関係者の一団と夕ご飯を食べ、劇場の斜め前のステイ先に帰宅。帰りが連日遅いので、ホストとぜんぜん交流ができてない。
ちょっとだけ話した時に聞いたところによると、ホストママは文学研究でPh.Dを持ってて、旦那さんのお父さんはなんと90年代初めまでドイツ座で演出をしてた、という。そして娘のマリアンは日本語を勉強してて、来年早稲田に留学を希望してる、という。ゲーテがそういうことも含めてステイ先を手配してくれたのだと思うが、なんだかこの先も続いていきそうなご縁になる予感。

ベルリン:2日目。

朝、皆でシュプレー川をツアーボートに乗って往復して、川沿いの建物たち(Reichstag, Museumsinsel, Bundeskanzleramt,などなど)の前をざっと横切る。ツアーコンダクターさんの説明がドイツ語からいきなり英語になってまたドイツ語に戻ったりするんだけど、切り替えが急すぎてついていけず。

授業のあと、一回目のStammtisch(近くのバーで学校全体の生徒が集まって交流会、というかひたすらビールを飲む)をサボって、ベルリン初の舞台鑑賞。Armin Petrasという演出家による、Einar Schleefの小説をもとにした”Gertrud”。


あとから振り返ってみると、これはTreffenで観た中で一番よかったかもしれない、と言いつつ白状すると、私、時差ボケってなったことないんですけど、5日の深夜に着いた次の早朝からテストでそのまま授業で終わったあと皆で飲んで今日も朝から観光して4時間半授業のあと観劇、しようと思ったら電車を乗り間違えてさんざん乗り換えたあげく着いたと思ったら駅から劇場の反対方向に歩いてしまい、地図を片手にうろうろしてたら開演時間を過ぎてしまい、やばい、と思いつつやっと着いておそるおそる、まだ入れましゅか、と聞くと、開演時間を完全に間違えていたらしく開演は21時ですよと諭される(この時点で19時半すぎ)。そんなこんなで客席の暗闇の中に身を沈めた瞬間に一気に疲労が押し寄せてきたのでした。基本的にどんなに眠くても疲れてても劇場内では絶対に眠れない体になってしまっているので、なんか耳がドイツ語をところどころキャッチしながら眼が英語字幕と舞台を行ったり来たりしながらでも意識は座席に乗っかってる体にかかってる重力に従って遠のいてく、みたいな、ちょっとした臨死体験を味わってしまいました。


ここでとってもよくわかったことは、アイナー・シュレーフレベルのドイツ語を耳で聴きとるのはまだ遥かに不可能だってことと、英語(たぶん日本語でも)字幕は意識が50%無い状態では読めないってことの2点でした。でも、そんな状態でも舞台の良さだけはちゃんと伝わってくるという、こんなこと言う資格はないだろうけど、いい舞台でした。ぜひ東京にも呼びましょう、相馬さん。

ベルリン:1日目。

 5日の深夜にベルリンに到着して、ゲーテ・インスティトゥートでクラス分けテストを受け、今日から授業が始まった。


 ホームステイ先はFriedrich Str.で、ゲーテSバーンで一駅先のHackescher Markt。クラスにはイタリア人と、スロバキア人と、フランス人と、アルジェリア人と、カナダ人(ケベック)と、アメリカ人と、イスラエル人と、スペイン(カタルーニャ)人と日本人がいて、全部で14人。下は大学生から上は60代まで、平均年齢はちょっと高め。ケベックから来てるおじさんは、話を聞いたらケベック大のラテン語の教授でした。あとイスラエルの男の子はテル・アビブでレストランを経営してるシェフ、スロバキアの女の子は去年Oxfordの修士を終えたフリーター、隣の席のアルジェリア人はフランス人の奥さんとなぜかフランクフルトに住んでる30代の学生。みんな経歴も何もばっらばらで楽しい。
 
 これから一ヶ月間、お昼すぎから18時くらいまで、月曜から金曜までみっちりドイツ語授業。


 と同時に、この滞在の(主)目的は、毎年5月にベルリンで開催されてる演劇フェスティバル、"Theater Treffen"の舞台を観ること。このフェスは、前年度にドイツ語圏で上演された数々の舞台作品の中から、ベスト10作品が選ばれてベルリン市内の各劇場で2週間にわたって上演されるというもの。Treffenの開催に合わせて東京からも関係者がたくさん来ているので、いろいろ情報を交換しながらフェスを堪能したいと思いまーす。