La vie de boheme

アキ・カウリスマキ監督の「ラ・ヴィ・ド・ボエーム」を観た。「浮雲」にとても感動して、他のも観たいと思って観たのだけれど、「浮雲」とは違いこの作品には救いがなかったため、仕事疲れとあいまってとてもげんなり。冒頭で男が転ぶシーンに始まり、カフェでの画家と作家の出会い、双頭の鱒、作曲家の登場、そして画家に肖像画の仕事が来、作家に編集長の仕事が決まったあたりまではおかしみのある明るい貧しさだったが、そこからじわじわと救いようがなくなっていく様が泣くに泣けない悲劇だった。悲劇、と書いて、これはとても面白い悲劇だったなと思い当たった。悲劇といえば、登場人物が人間の力の及ばないなにものかと戦い敗れる様を描いているのが一般的である。ギリシャ悲劇しかり。最近のドラマだと、「涙そうそう」しかり。そして観客は、登場人物の葛藤に感情移入し、何らかの激しい感情を登場人物と共有して涙を流す。しかしこの作品は、そもそも個人による「闘い」の要素がごっそり削がれ、死に至る病にかかった女の表情も、彼女の入院費を稼ぐために画家が絵を描きまくり、作曲家が車を売り作家が本を売る過程も、葛藤や苦渋といった要素を少しも見せないままひたすら淡々と進んでいく。劇的な起伏が生じるはずの事態は、何らの激情も見せないまま過ぎ去っていく。カウリスマキの作品は全部観たいなあと思った。