二兎社

永井愛作「歌わせたい男たち」を観た。文句なしに楽しく素晴らしい舞台だった。でも、批判とか批評としてじゃなくて、ただの感想として、笑いによって笑えない部分が隠蔽されてしまっていると思った。同時に、ポストトークでの「事実に語らせる」という永井さんの言葉が印象的だった。物語を無理に構築するのではなく、「事実に語らせる」。今回の滑稽な笑いに満ちた舞台は、事実から自然に語られてきたものだったのだろう。
大げさに、シリアスにするのではなく、物語を見て泣いて感動するというのではなく、笑って納得してもらうほうにもって行きたいという永井氏の言葉に、なぜかポツドールの三浦さんを連想した。彼は平田オリザ作「S高原から」の時、生死のかかった病を正面からシリアスに扱うのはなんか違うと語っていたけれど、何らかの主題を正面からシリアスに扱うことをただ迂回して避けることと、主題に異なる側面からアプローチしていくこととは違う。今回の永井氏の舞台は後者だが、あまりに舞台が面白いので、笑ってすませてはならないはずの部分も笑いに掠め取られてしまっているように感じたのかもしれない。